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【動画】山内マリコさんと金原ひとみさんの対談=竹花徹朗撮影

 作家の山内マリコさんの連載「永遠の生徒」。今回の「先生」は、作家の金原ひとみさんです。性暴力根絶へステートメントを発信した山内さんと、最新小説『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』で、文芸業界における性加害の告発をめぐる物語を紡いだ金原さん。それぞれのアプローチで性加害問題に向き合ってきた2人が、自身の体験やこれまでの文芸界の空気感、価値観の変化、「正しさ」を求められる社会について、語り合います。

Re:Ron連載「永遠の生徒 山内マリコ」第5回【対話編×金原ひとみ】

小説『YABUNONAKAーヤブノナカー』(文芸春秋)のあらすじ

文芸誌「叢雲」元編集長の木戸悠介、高校生の息子、編集部員の五松、五松が担当する小説家の長岡友梨奈、その恋人、別居中の夫、引きこもりの娘など、男女8人の視点から出版界の舞台裏を映し出す。ある女性がかつて木戸から性的搾取をされていたとネットで告発したことをきっかけに、それぞれの日常や関係が絡み合っていく。

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 【山内】 『YABUNONAKA』、めちゃくちゃすごかった……! 週刊誌やSNSでの性加害の告発によって社会が変化してきたなかで、小説でそれをやろうとしているというか。落とし前をつけようとしている感じ。徹底的に、自分たちの業界に向き合ってますね。

 【金原】 色んな告発が起こるなか、自分がこれまでされてきたことも振り返って、自分も傷ついていたんだと気付いていく経験のなかで、積み重なっていくものがありました。性加害、性搾取の問題について真っ正面から書きたい、何かしらの形で表現しないといけない、でもなかなか形にならない、と思ってました。

 そんななかで2022年ごろ、度重なる告発や被害の内容が流れてきて、もうグズグズしてらんねえ!という焦りも感じて。いい加減書かないと自分も終われない、というよりも始まらない、とせき立てられるように始まった連載でした。

 【山内】 「文学界」での連載が始まったのは2022年の9月号。あの時期の空気が伝わってきたし、シンクロしているのを感じました。私はその年の4月に、複数の女優が某映画監督から受けた性暴力を告発したのを受けて、「原作者として、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます」というステートメントを発表しました。自分たちは直接的な関係者ではないけれど、告発した女性たちに連帯の意思を表明することはできるんじゃないかと。

  • 性暴力根絶へ 二つのステートメントへの思い 山内マリコ×柚木麻子

 私と柚木麻子さんが文責を務め、作品が映像化された「原作者」の立場にある作家さんに声をかけ、最終的に18人が名前を連ねました。実は金原さんにも声をかけていましたが、そのときは辞退されて……けどその理由が、すごく真摯(しんし)にこの問題を考えているものだったんです。私たちは即時性が高くて直接的な、ステートメントという形をとったけれど、金原さんは小説でやろうとしているんだと感じました。

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対談する山内マリコさん(左)と金原ひとみさん=2025年7月7日、東京都千代田区の文芸春秋、竹花徹朗撮影

 【金原】 たしか、ちょうど自分もこの小説の構想を考えていたときにその話があって、やっぱり自分の言葉でちゃんと気持ちを伝えていきたい、これまで抱えてきたものを表現したい、という気持ちがあって。その段階ではお断りして、自分はこうしたい、と伝えました。

 もちろんステートメントに賛同する気持ちはありましたし、性暴力を減らすためならなんでもしたいという思いもありました。でもやっぱり、これまで声を上げてこなかったくせに、人が声を上げ始めたときにそこに名前をつけるという形で気持ちを表明するのは、「お前何したの?」と自分自身に突っ込みを入れたくなるような感覚もあって……。どうしても自分がされてきたことと自分がしてきたことをしっかり自覚した上で、小説で表現したい、という思いが強烈にありました。

 【山内】 映画業界の告発を見て、「自分も思うところはあるけれど、作品で向き合いたい」という意見は多かったんです。ソーシャルメディアによって誰でも声を上げられる社会になりましたが、小説家はSNSが出現する前から作品でそれをやれた、数少ない職業ですし。

 ステートメントに賛同してくれた人からも、「出版界にもハラスメントの土壌はあるのに、他業界にだけ口出しするのは違う」という意見があがり、これからは自分たちの業界でもこの問題に向き合っていきますという意思表明を加えました。

 それを有言実行しようと、この2、3年は日本文芸家協会やペンクラブといった組織に積極的に関わって、文芸の世界の内部からなにかできないかと模索してまして。そんななかで読んだ『YABUNONAKA』! 「ひとみもずっとこの問題と向き合っていたのねー!」と胸が熱くなりました。しかもとんでもない大長編。

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山内マリコさんが手に持つ金原ひとみさんの新刊「YABUNONAKA-ヤブノナカ-」=2025年7月7日、東京都千代田区の文芸春秋、竹花徹朗撮影

 【金原】 想定していたよりもボリュームが大きくなって、約1千枚(40万字)になりました。最初はそこまで多視点にするつもりはなくて、5人ぐらいと思っていたのが、結局8人に。書いていくなかで、数人の視点だけじゃ書き尽くせない、もっとたくさんの、色んな属性からの視点を入れたい、という思いが強くなっていった。50代、40代、30代の人たちが若者からどう見えるかも書かなきゃと思ったし、現代的な感覚や所作を身につけているけれどもまだ社会とは一線を画している10代の子どもの視点も入れ込みたくなりました。

■いびつな権力勾配につけ込む 文芸界では温存?

 【山内】 小説では、木戸という元編集長への告発を軸に、作家、部下の編集者、家族など、立場も世代も性別も異なる視点から複合的に描かれます。しかも全員の視点をものすごい解像度で書き分けている。金原さんは私より年下ですが、デビューがとても早いので、2000年代の文芸界を知っていますよね。その時代特有のちょっと荒っぽい空気を、若者の立場から見ていた。その頃からの蓄積を、この小説で全部出し切ろうとしている。そういう気迫があります。

 【金原】 若者の立場ではあ…

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